2018年1月8日(月)13:00から、New Jersey City Universityの教育学部カウンセリング教育学科長の小川裕美子先生による招待講演「身近な異文化 / 多文化間カウンセリング:世界を学び、自分を学ぶ」及び国際交流シンポジウム「異文化間/多文化間カウンセリング −人と文化:他者を理解するということ」が開催されました。
招待講演「身近な異文化 / 多文化間カウンセリング:世界を学び、自分を学ぶ」
New Jersey City Universityは、白人種が半数以下の少数派で、マイノリティとされるアジア系、ラテン系、イスラム系の学生が多く、異文化間 / 多文化間カウンセリングの必要性が高い。異文化間 / 多文化間カウンセリングの難しさは、他の文化に対してステレオタイプに判断しやすい差別の問題が背景に強く影響を与えているということである。授業などで集団で文化について話す時には、自由に発言する機会を与え、ヒートアップした激論の中で、気持ちをぶつけ合い、ステレオタイプな観方から自由になっていくプロセスがとても大切である。それは個人のカウンセリングの中でも同様であり、カウンセラーはクライエントの異文化性に対して虚心坦懐に学び教えてもらう姿勢が大事であり、文化間の衝突の上での他者理解、また翻って自己理解につなげていくことがカウンセリングの到達点となる。
国際交流シンポジウム「異文化間 / 多文化間カウンセリング-人と文化:他者を理解するということ」〜話題提供
河﨑佳子先生(神戸大学国際人間科学部 発達コミュニティ学科)「聴覚障害と異文化理解」
一人のろうの女性が相談室を訪問しカウンセリングを求めたが断らざるを得なかった悔しさから、手話を学び始めたことから始まり、異なる身体 / 異なる言語と文化に触れて、「本源的自己中心性との闘い」としてのカウンセリングというテーマに到達していった。手話とは独自の文法構造を持つ独立した言語だという鮮烈、ネイティブサイナーとの交流が保証されることによって、自然に手話は獲得され母語となる。しかし長い間手話は聴覚障碍者の教育の中で遠ざけられていた歴史がある。感動的なことは、ろう者同士が手話で話していると、彼らの間では“3D”のような映像が見えているということである。
吉田圭吾先生(神戸大学国際人間科学部 発達コミュニティ学科)「スクールカウンセリングにおける外国人カウンセリングと帰国子女カウンセリング」
日本で生まれた外国人にとって大切なことは、母親が母国語で心から安心して赤ちゃんを育てることが出来たかどうかである。ところが夫の気持ちや姑の気持ちに配慮し、苦手な日本語で育てている母親も多く、そのような事態は幼児にとって母親との根源的な愛着関係を阻害する要因になってしまう危険性がある。そのような事態を3つの事例に基づいて説明するとともに、傷つけられた根源的母子関係を、バウムテストや風景構成法でどのように読み取るのか、さらに箱庭療法によってどのように改善をもたらすのかについて考察した。
齊藤誠一先生(神戸大学国際人間科学部 発達コミュニティ学科)「発達環境としての異文化とそれへの適応」
人間はストレスに対して逃走か闘争かの反応を呈する。ストレスは糖質コルチコイドをもたらし、それが遺伝子発現に影響を与える。心理学において古くから存在する遺伝か環境かという問題は、もちろん最近では両方が関わっているとされているが、行動遺伝学において議論されていることとして、文化が遺伝子発現のスイッチをオンやオフにしているという問題がある。それこそがepigeneticの本質であり、エリクソンのepigeneticも本来はそのような遺伝子レベルの問題を含んだ図式であるとすることで理解が深まる。
小川先生(New Jersey City University, Department of Counselor Education)と森岡正芳先生(立命館大学総合心理学部)の指定討論を交え、フロアとも活発なディスカッションがなされ、とても有意義な時間を持つことが出来た。